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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)5000号 判決

原告 竹田政こと 李圭漢

右訴訟代理人弁護士 三木俊博

同 国府泰道

被告 山一證券株式会社

右代表者代表取締役 三木淳夫

右訴訟代理人弁護士 吉田清悟

右訴訟復代理人弁護士 清水正憲

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四億八九三三万五二六円及びこの内別紙取引一覧表(一)(以下「一覧表」という。)の支払金額欄記載の各金員につき同表支払日欄記載の各日から支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、駐車場経営を営んでいる者であり、証券取引法制上「一般投資者」と呼称される者である。

(二) 被告は、証券業を営む株式会社であり、本件取引の担当者は、当時被告西宮支店次長の職にあった和田康司(以下「和田」という。)及び和田の後任の永島紘二(以下「永島」という。)であった。

2  和田、永島の勧誘行為

(一) 原告は、株式等の証券取引の経験がなく、証券取引についての知識もほとんどなかったが、昭和六二年一二月上旬頃、被告の広告チラシを見て被告西宮支店に電話を掛けたところ、同支店の次長であった和田が原告宅を訪れ、原告に対し、「東京湾岸が再開発されるので東京湾岸にかなりの土地を保有している三井不動産株は間違いなく値上がりする。遅くとも一年以内に間違いなく五〇〇〇円になる。私が保証する。」等と三井不動産株の購入を勧め、一覧表1、2のとおり購入させた。

(二) 平成元年一月頃、和田は、原告に対し、証券投資信託取引を勧誘した。その際、和田は、投資信託の内容を何ら説明せず、受益証券説明書を提示、交付することもなく、かえって、投資信託について定期預金のようなものだと説明し、利息については個人向けのものは利回りが年二割であると説明して勧誘したので、原告は、同月二二日、パワフル五〇〇〇口を五〇〇〇万円で購入した。

更に同年三月ころ、和田は、普通では手に入らない、満期がなく、利回りは三割であると説明して投資信託の購入を勧誘したので、原告は業種選択F13を同月八日一〇〇〇万円、同月二二日一五〇〇万円で購入した。

(三) 右購入後しばらくして、和田は、利息の良い時に早めに売って他に乗り換えることを勧めたので、原告は、一覧表番号3、4のとおり、投資信託を購入した。その際にも、和田は、受益証券説明書を提示、交付することもなく、従前同様、投資信託は銀行の定期預金の様なものだと説明し、利息は個人向けのものは利回りが年二割であり、法人向けのものは年三割であると説明し、原告には特別に法人向けのを回すと述べた。原告は法人向けを希望したが、法人向けは一五〇〇万円が限度であるところから、法人向け一五〇〇万円、個人向け一〇〇〇万円を購入した。和田は、続く一覧表の番号5の投資信託についても、右と同様の説明をして原告を勧誘し、購入させた。

(四) 同年七月頃、和田は東京に転勤し、永島が担当を引き継いだ。原告の担当になって後、まず永島は、原告に対し、転換社債の内容を説明せず、六か月以内に二割の利回りがあるとのみ説明して、一覧表の番号6、7の転換社債の購入を勧誘し、これを購入させた。永島は、一覧表の番号16の転換社債についても、同様の説明をして原告を勧誘し、購入させた。

(五) 次いで永島は、原告に対し、和田と同様に「定期預金と同様の金融商品である。個人向けのものは年二割、法人向けのものは年三割の利回りである。」と申し向けて一覧表の番号8の投資信託の購入を勧誘し、以後、同様の勧誘により原告に一覧表の番号8以下のとおり投資信託を購入させた。特に一覧表の番号21の投資信託について、永島は「バルセロナオリンピック向けで年四割の利回りになる。」と説明して勧誘し購入させた。

(六) 同年一二月頃、永島は、原告に山一證券の株式の購入を勧誘し、購入させた。その際、永島は、右株式は六か月以内に三〇〇〇円にまで値上がりすると述べた。

3  和田、永島の行為の違法性

(一) 説明義務違反

(1) 被告は、一般投資者である原告に対し、証券投資信託の購入を勧誘するにあたり、各投資信託毎にその受益証券説明書を交付し、それに即して各投資信託の内容、とりわけ危険性の内容・程度(一定の利益を保証することができないこと、株式など価格に騰落のある証券に投資するため、元本割れの虞があること等)を説明すべき義務があった。

(2) しかし、和田、永島は、原告に対し証券投資信託の購入を勧誘するに際し、右義務に違反して、定期預金の様なものだというだけで、投資信託の内容を何ら説明せず、受益証券説明書を提示、交付することもなかった。

(二) 断定的判断の提供

和田、永島は、原告に対する勧誘にあたり、株式については一定期間内に一定額の値上がりが確実である旨申し向け、投資信託及び転換社債については年二割ないし三割あるいはそれ以上の利回りがある旨申し向けて証券取引法第五〇条一項一号で禁止されている価格の騰落に関する断定的判断を提供した。

(三) 利益保証

和田、永島は、原告に対する勧誘にあたり、株式については一定期間内に一定額の値上がりがあることを保証し、投資信託及び転換社債については年二割ないし三割あるいはそれ以上の利回りを保証した。

4  原告の損害

(一) 原告は、和田、永島の違法な勧誘行為により一覧表記載の取引を行い、同表支払金額欄記載の代金を支払っているのであって、右代金額合計四億四九四五万五二六円の損害を被った。

(二) 原告は、本件訴訟提起にあたり、原告訴訟代理人に訴訟追行を委任し、着手金、報酬として合計三九八八万円を支払うことを約した。本件訴訟は、その内容に照らして、法律専門家たる弁護士に訴訟委任することが不可欠であるから、原告は被告に対し、右弁護士費用も損害として賠償を請求できる。

5  よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求として請求の趣旨記載の金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の反論

1  請求原因1(一)、(二)は認める。

2  請求原因2(一)のうち、原告が一覧表番号1、2の株式を購入したことは認めるが、その余は否認する。三井不動産の株式は原告からの積極的な申出によって取引が成立したものであり、被告側の勧誘によるものではない。

同2(二)のうち、平成元年一月頃、和田が原告に対し、証券投資信託取引を勧誘し、原告主張の日にパワフル、業種選択F13を購入したことは認めるが、その余は否認する。

同2(三)のうち、和田が一覧表の番号3ないし5の投資信託について原告を勧誘し、原告が右投資信託を購入したことを認め、その余は否認する。

同2(四)のうち、同年七月頃、和田が東京に転勤し、永島が担当を引き継いだこと、永島が原告に対し、一覧表の番号6、7及び16の転換社債の購入を勧誘し、原告がこれを購入したことを認め、その余は否認する。

同2(五)のうち、永島が原告に対し、一覧表の番号8の投資信託の購入を勧誘し、以後、永島の勧誘により原告が一覧表の番号8以下の投資信託を購入したことを認め、その余は否認する。

同2(六)のうち、同年一二月頃、永島が原告に山一證券の株式の購入を勧誘し、原告がこれを購入したことを認め、その余は否認する。

3  請求原因3(一)(1)は争い、同3(一)(2)は否認する。同3(二)、(三)は否認する。

4  請求原因4(一)のうち、原告が和田、永島の勧誘行為により一覧表記載の取引を行い、同表支払金額欄記載の代金を支払ったことは認め(ただし、買付時期、代金支払時期については別紙取引一覧表(二)記載のとおりである。)、その余は争う。

同4(二)は争う。

5  被告の反論

和田、永島が原告に対して証券投資信託等の購入を勧誘する際に行った説明は以下のとおりであり、被告側には法律上要求される注意義務の違反はない。

(一) まず、パワフル、業種選択F13、一覧表の番号3、4の取引については、いずれも和田が受益証券説明書を原告に提示して、その内容の要点を説明し、投資信託の方が株式投資に比べて安定性が高いことを説明したうえ、クローズド期間明けに元本割れのケースでも、償還利回りでは有利になっている実績があることを実績表を示して説明した。

(二) 一覧表の番号5の取引についても、和田が原告に受益証券説明書を提示の上説明し、同種のファンドの実績からみて銀行で運用するより有利であると思われる旨述べて勧誘したが、年六パーセント以上の利回りを保証する旨の書面を書けとの原告の要求は断った。

(三) 一覧表の番号6、7の転換社債については、永島が原告に対し、転換社債は予め定められた条件で株式に転換できること、株価に連動し株価が上がれば転換社債の価格も上がるが、その逆もあること、ただし、転換社債は、定期に予め定められた利息を受け取れるし、償還時には株価と関係なく額面金額を受け取ることができること等の具体的説明をした上、株式よりは安定性があり、値上がり益も狙えることをパンフレットを示して説明した。

(四) 一覧表の番号9の取引については、永島が業種選択ファンドのパンフレットを提示して内容を説明した。その際、具体例として、02コースは建設・不動産・倉庫関連株式を組み入れてパック運用すると説明したところ、原告は、以前に和田から同様の商品を購入した経験があるのでよく知っていると述べた。

(五) 一覧表の番号11の取引については、永島がパンフレットを提示の上、株式一〇〇パーセントを組み入れ、一部上場銘柄を予想経常利益の伸び率の高い順にランキングし、上位の銘柄からPER、市場等を考慮し一五〇銘柄位を選定する等して投資する等と商品内容を説明した。

(六) 一覧表の番号15の取引については、永島は、原告にパンフレットを提示して、右投資信託は企業の収益力、資産価値、株価水準という三つの基準を用いて選択した割安株を組み入れ運用することになっている等商品の内容を説明した。

(七) 一覧表の番号16の転換社債については、永島は原告に対し、電話で転換価格、利率、償還日等を説明した。

(八) 一覧表の番号17の取引については、原告が以前から公募株を購入したいとの強い意向を示していたところ、永島は、山一證券の公募株であれば一万株購入できることを原告に電話で連絡し、平成元年一二月一三日、一九三〇円で購入できることを説明して成約に至った。

(九) 一覧表の番号20の取引については、永島がパンフレットを原告に提示して、同投資信託は株式と転換社債等をそれぞれ五〇パーセント程度組み入れ運用すること、転換社債は買い入れるには良い時期であり、運用は世界初の本格的転換社債分析システムを用いる等と説明した。

(一〇) 一覧表の番号21の取引については、永島がパンフレットを原告に提示して二年後にECが統合すれば日米経済に対抗できる市場が生まれる、また東西融合も考えられるので国内総生産の成長、企業業績の増大、証券市場拡大などの可能性がある旨説明した。

(一一) 一覧表の番号22の取引については、永島がパンフレットを原告に提示して前記(六)と同様の説明をした。

(一二) 一覧表の番号23の取引については、永島がパンフレットを原告に提示して、トピックスオープンとは最適ポートフォリオ作成支援システムを用いて東証株価指数に連動するものであること等を説明した。

(一三) 右のほか、新株式シリーズの取引については、原告からの積極的な申出によるものも幾つかあるが、被告側から勧誘する場合には以上の取引と同様、商品内容を説明している。

三  抗弁

過失相殺及び損益相殺

仮に和田、永島の勧誘行為に違法な点があり、原告に対する不法行為が成立するとしても、本件では原告にも安易に勧誘に応じた等の過失があるから、過失相殺により相当額を損害額から控除すべきである。

また、原告は、右勧誘に応じたことによって本件の株式、転換社債、投資信託を取得しているから、これらの商品の価格を損益相殺により損害額から控除すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(一)、(二)の事実、平成元年一月頃、和田が原告に対し、証券投資信託取引を勧誘したこと、和田がパワフル、業種選択F13及び一覧表の番号3ないし5の投資信託について原告を勧誘し、原告がこれを購入したこと、同年七月頃、和田が東京に転勤し、永島が担当を引き継いだこと、永島が原告に対し、一覧表の番号6、7及び16の転換社債の購入を勧誘し、原告がこれを購入したこと、永島が原告に対し、一覧表の番号8の投資信託の購入を勧誘し、以後、永島の勧誘により原告が同一覧表番号8以下の投資信託を購入したこと、同年一二月頃、永島が原告に山一證券の株式の購入を勧誘し、原告がこれを購入したこと、原告が和田、永島の勧誘行為により一覧表記載の取引を行い、同表支払金額欄記載の代金を支払ったこと(ただし、買付時期、代金支払時期については争いがある。)は当事者間に争いがない。

二  和田、永島の勧誘行為について

右争いのない事実に証拠(甲一の1ないし4、二九、乙一ないし一二、一四、一五、一六の1ないし6、一七の1ないし25、一八、二三の1ないし6、二四の1、2、二五、二六の1、2、二七、二八の1、2、証人和田康司、同永島紘二、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  昭和六三年一二月二一日、原告は、被告西宮支店に電話を掛け、三井不動産の株式を一万株購入したい旨申し込んだ。原告の電話についての報告を受けた和田は、従業員に原告が代金を支払うことができるか否かを電話で確認させたうえ、直ちに原告宅に赴いた。和田は、まず原告に対し、なぜ三井不動産の株式を購入したいのかを尋ねたところ、原告は、友人から勧められたと答え、さらに和田に対し同人の意見を求めたため、和田は、三井不動産は東京湾岸に多数の不動産を保有していることや東京湾岸の再開発の話をし、良いのではないかと述べた。そして和田は、原告に対し、被告西宮支店では原告との間に取引がないので、原告の注文を執行するためには一割以上の内金を支払ってもらう必要がある旨告げたので、原告は、三井不動産の株式を原告名義で一万株、原告の妻名義で二〇〇〇株購入し、内金五〇〇万円を支払った。

(右認定に対し、原告は、原告が被告のチラシを見て被告西宮支店に電話を掛け、被告のチラシには株が儲かるようなことが書いてあるが、詳しく話を聞きたいので一度訪ねてきてほしいと申し出たところ、和田が原告宅を訪れ、原告に対し、「東京湾岸が再開発されるので東京湾岸にかなりの土地を保有している三井不動産は間違いなく値上がりする。遅くとも一年以内に間違いなく五〇〇〇円になる。私が保証する。」等と述べて三井不動産株の購入を勧めた旨供述するが、証人和田康司によれば、和田は当時、投資相談課長の職にあり、その職務内容は来店する顧客の投資相談と商品の勧誘であったことが認められるのであり、原告が供述するような漠然とした申出によって和田が原告宅まで赴き、初対面の原告に対し、いきなり三井不動産の株式の購入を勧め、値上がりを保証したというのは極めて不自然であるうえ、初めての取引であるにも拘らず、和田の説明を鵜呑みにして即座に一万二〇〇〇株を購入するとは考え難く、右当時株価は右肩上がりの状況であったことを勘案すると、原告の右供述は信用できない。)

2  その後、和田は原告宅を訪れるようになったが、原告から、金はある、何かいい商品はないかと言われていたため、平成元年一月頃、原告に対し、パワフル八九〇一という証券投資信託の購入を勧誘した。その際、和田は、事前に部下の訴外西尾麻紀に命じてパンフレット、リーフレット、受益証券説明書を原告に届けさせたうえ、自ら原告宅を訪れ、受益証券説明書等を示して投資信託の一般的説明を行い、投資対象について、株式と債券との比率や株式の場合どのような方向性で投資を行うか等の点を説明し、同種の投資信託の過去の利回りの実績を記載した書面を示して勧誘した。しかし、元本が保証されるものではないという説明は特にしなかった。

3  同年三月初め頃、和田は、原告に対し、業種選択ファンドという投資信託の購入を勧誘した。その際、和田は、受益証券説明書等の説明書類を持参し、受益証券説明書を示しながらその内容を説明し、一三の選択肢の中から運輸・電力・通信関連企業の株式を主な投資対象とするものを推奨した。その結果、原告は右投資信託を同月八日に一〇〇〇万円分、同月二二日に一五〇〇万円分それぞれ購入した。

4  同年五月二日、原告は、和田の勧めにより、右業種選択ファンドを売却し、一三三万二二二七円の利益を得たが、同月九日頃、和田は、原告に対し、右売得金二六〇〇万円余りでスリーポイント八九〇五、新株式シリーズ八九〇五という二種類の投資信託を購入することを勧めた。その際、和田は、受益証券説明書等の説明書類を原告宅に持参し、まずスリーポイントについては、受益証券説明書を示して商品内容を説明し、過去の利回りの実績を記載した書面を示して勧誘した。そして新株式シリーズについては、リーフレット、受益証券説明書を示してその内容を説明し、同投資信託は法人向けの投資信託であること、過去の利回りの実績が一割を超えており、非常に運用実績が良いこと、法人向けのものは手数料が安いことを説明して勧誘した。和田は、過去の利回りの実績を説明する際、クローズド期間明けに元本割れのケースでも、最終的な償還利回りでは有利になっている例があることも説明した。原告は右説明を受けて、全額新株式シリーズを購入したいと申し出たが、和田は、同投資信託は、当時被告西宮支店には一五〇〇万円分しか割当がなかったことを説明し、その結果、原告は、新株式シリーズを一五〇〇口、スリーポイントを一〇〇〇口購入した。

(右認定に対し、原告は、和田は、投資信託の内容を何ら説明せず、受益証券説明書を提示、交付することもなく、かえって、投資信託について定期預金のようなものだと説明し、利息については個人向けのものは利回りが年二割であり、法人向けのものは年三割であると説明して原告を勧誘した旨供述するが、当時原告は、被告西宮支店から一回の取引につき一〇〇〇万円以上の商品を購入しており、このように大口の顧客であった原告に対し、和田が受益証券説明書等の説明書類を一切交付しなかったというのは考え難いし、また、証人和田康司の証言によれば、当時、年二割ないし三割の利回りの実績があった投資信託は、過去に一、二あったにすぎないことが認められ、和田が原告に対し、事実とかけ離れた説明を行ったとは通常考えられないし、原告が何らの資料や根拠も示されないのに和田の説明をそのまま信じて多額の投資信託を購入したというのも不自然であるから、原告の右供述は信用できない。)

5  同年七月頃、和田は、原告に対し、ニューフロンティア八九〇七という投資信託の購入を勧誘した。和田は、受益証券説明書を提示してその内容、特にマザーファンドについて説明し、株より安定度が高いこと、クローズド期間がいつまでであるかも説明した。その際、原告は、年六パーセント以上の利回りを保証するという内容の書面を作成するよう和田に求めたが、和田は、投資信託の性質上、利回りは保証はできないと説明し、右申出を断った。

6  和田は、同年七月末頃に転勤し、永島がその後任として原告の担当者となった。永島は、まず同年八月九日頃、パンフレットを持って原告宅を訪れ、原告に対し、日本鋼管の転換社債の購入を勧誘した。右勧誘の際、永島は、転換社債は一定の条件で株式に転換できる社債であること、転換社債の価格は株価に連動して上下するが、満期日には額面金額が償還される点が株式と異なること、また保有期間中は一定の利息が得られること等を説明した。次いで永島は、同月一〇日頃、原告に対し、新発で値上がりが見込まれること、手数料が不要である等と言って、久保田鉄工の転換社債の購入を勧誘した。その際永島は、原告に転換価格、利率等を説明した。

7  同年八月頃、永島は、原告からの、金が入る、いつも買っているものが手に入らないかとの要請により、原告に対し、新株式シリーズ八九〇八、業種選択ファンドの二種類の投資信託の購入を勧誘した。右勧誘の際、永島は、念のため、まず新株式シリーズについて、受益証券説明書を提示してこの投資信託は法人向けであること等その内容を説明し、業種選択ファンドについても、受益証券説明書を提示してその内容を具体的に説明したが、原告は以前和田から同様の商品を購入したのでよく知っていると述べた。その後原告は、儲からないから業種選択ファンドの購入を止めると永島に申し入れたが、永島が予想利回りは八パーセント以上である等と説得し、結局購入するに至った。

(右認定に対し、原告は、永島は、原告に対し、和田と同様に「定期預金と同様の金融商品である。個人向けのものは年二割、法人向けのものは年三割の利回りである。」と申し向けて投資信託の購入を勧誘した旨供述するが、原告は和田からも同種の投資信託を購入しており、右内容について知っていると認められること及び前記4で説示したのと同様の理由で右供述は信用できない。)

8  同年九月頃、永島は、原告に対し、ファンダメンタル八九〇九という投資信託の購入を勧誘した。右勧誘の際、永島は、受益証券説明書を提示して、株式を一〇〇パーセント組み入れること、成長率の高い、好業績が見込まれる銘柄を約一五〇銘柄選んで運用すること等その商品内容を説明した。そして、原告が利回りについて尋ねたので、永島が年八パーセント程度の利回りが予想される旨述べたところ、原告は、永島に対し、右利回りを保証する旨の書面を作成するよう求めたが、永島は、投資信託の性質上、保証することはできないと述べて右要求を断った。

9  同年一二月初め頃、永島は、受益証券説明書等を原告宅に持参し、原告に対し、スリ ーポイント八九一二という投資信託の購入を勧めた。右勧誘の際、永島は、企業の収益力、資産価値、株価水準の三つの基準により選択した割安株を組み入れて運用することを説明した。

10  原告は、かねて公募株を購入したいとの意向を有していたので、永島は、同月中ころ電話で山一證券の公募株一万株を三・五パーセント安く買えると右株式の購入を勧誘し、原告は同月一五日右株式一万株を購入した。

11  翌平成二年二月二〇日頃、永島は、説明書を持って原告宅を訪れ、原告に対し、ヨーロッパグロースファンドという投資信託の購入を勧めた。その際、永島は、二年後にECが統合されれば日米に対抗できる市場が生まれる、そうすれば、国内総生産の成長、市場規模の拡大など好条件が揃うのでこの商品は有望である旨説明した。

12  次いで永島は、同月二一日頃、受益証券説明書等の説明書類を持って原告宅を訪れ、原告に対し、CBバランスファンドという投資信託の購入を勧めた。その際、永島は、転換社債と株式とを五割ずつ程度の比率で組み入れて運用することを説明し、転換社債は買い入れるには良い時期であり、運用は世界初の転換社債分析システムを利用するので非常に良い成果が得られるのではないかと述べて勧誘した。

13  同年三月頃、永島は、原告に対し、トピックスオープンという投資信託の購入を勧誘した。右勧誘の際、永島は、受益証券説明書を提示して、株価指数に連動するものであること等商品の内容を説明した。

三  違法性の有無

以上の事実を前提に和田、永島の行為につき原告主張の違法が認められるか否かを判断する。

1  説明義務違反について

原告は、和田、永島は、原告に対し、証券投資信託の購入を勧誘するにあたり、各投資信託毎にその受益証券説明書を交付し、それに即して各投資信託の内容、とりわけ危険性の内容・程度(一定の利益を保証することができないこと、株式など価格に騰落のある証券に投資するため、元本割れの虞があること等)を説明すべき義務があったのにこれを怠り、投資信託の内容を何ら説明せず、受益証券説明書を提示、交付することもなかったと主張するが、前記二で認定したとおり、和田、永島は、証券投資信託は株式や債券等に投資するものであり、株式など値動きのある証券に投資するため、その性質上、利回りは保証されるものではないこと等投資信託の内容を説明し、受益証券説明書、パンフレット、リーフレット等の説明書類を原告に提示して各投資信託の種類毎に投資対象、運用方針等の具体的内容を説明しており、右具体的説明において株式にどの程度の比率で投資するかについても説明がなされていること、利回りについては同種あるいは類似の商品の過去の利回りの実績を記載した書面を示して説明していることが認められ、証券投資信託の購入を勧誘するにあたっての必要な説明はなされているというべきであり、原告も証券投資信託の内容を理解して購入したと認められる。

前記二2で認定したとおり、和田は、原告に対する説明において証券投資信託は元本が保証されるものではないという説明を行っていないが、右に摘示したとおり、和田は、原告に対し、受益証券説明書、パンフレット、リーフレット等の説明書類を提示して、証券投資信託は株式や債券等に投資するものであり、その性質上、利回りは保証されるものではないこと等投資信託の内容を説明していることが認められるのであり、加えて、株式の価格が変動するものであり、企業の業績や市場の動向如何によっては大幅に値下がりすることもありうることはいわば周知の事実であることを考慮すれば、投資信託で運用した株式などの価格が大幅に値下がりすれば、一定の利回りが保証されないだけでなく、さらに進んで元本割れの可能性もあることは通常人であれば十分理解可能であり、また、原告もそのことを理解していたものと認められるから、右説明の際、元本が保証されるものではないことを特に指摘しなかったことをもって説明義務違反であるとはいえない。

2  断定的判断の提供、利益保証について

原告は、和田、永島は、原告に対する勧誘にあたり、株式については一定期間内に一定額の値上がりが確実である旨申し向け、投資信託及び転換社債については年二割ないし三割あるいはそれ以上の利回りがある旨説明した、また、同人らは右値上がりないし利回りを保証したと主張するが、証人永島紘二の証言によれば、原告は、株価が大幅に値下がりした平成三年七月ころ、初めて和田や永島が二割の利回りを保証したと主張するに至ったことが認められ、これに前記二で説示したとおり、和田も永島も、利回りを保証する書面を書けとの原告の要求を断っていることを併せ考えると、原告の主張に沿う原告の供述は信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は理由がない。

3  よって、本件における和田、永島の勧誘行為について原告が主張するような違法な点は認められない。

四  以上から、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 浦上文男 裁判官 中桐圭一)

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